新刊紹介 Andre WLODARCZYK
 

POLITESSE ET PERSONNE - Le japonais face aux langues occidentales

(敬意と人称 西欧語に対する日本語)

フランスにおける久々の日本語学に関する研究書が出版された。タイトルからも明らかなように、本 書は、日本語の敬語を西欧語の人称との関わりでとらえ、言語システムにおけるその体系的な位置づけを試みたものである。

内容は、日本語の敬語と西欧語の人称に関する研究小史からはじまり、日本語の敬語の実態とその分 類の歴史、敬語に関する社会言語学的研究の紹介を経て、敬語と人称の機能および代名詞における日本語と西欧語の比較、構文論と意昧論の側 面からの分析、そ して敬語システムの形成へと展開されている。

便用条件の考察が主流であった日本の国語学と、言語的な構造分析を主張した一般言語学の流れをと もに俯瞰しつつ、生成文法から語用論におよぶ分析の方法論を駆使して敬語現象のカテゴリー化をめざしている。従釆の欧米の日本語研究が見 落としがちだった 日本の国語学の成果にも幅広く眼を通し、山田孝雄から菊地康人に至る諸論文が丹念に紹介されているのは、著者の長い日本語歴によるものだ ろう。敬語を日本 語に特別な現象としてとらえず、普遍的な言語体系の中でどのように位置づけられるかがさまざまな観点から試みられている点で、今後の敬語 研究への重要な手 がかりとなるであろう。 

著者のアンドレ・ヴロダルチック氏は、l944年ポーランド生まれ、CNRS(フランス国立科学 研究センター)主任研究員を経て、現在グルノーブル大学教授(東洋学科主任)。日本語の構文論・意昧論の研究をはじめ、コンピュータ言語 学にも造詣が深 い。なお、本書の骨子は1987年に提出されたフランス国家博士論文にもとづくという。日本の読者のための翻訳も時をおかず実現すること を期待したい。 

     細 川英雄

[クロド・アジェジュ・コレジュ・ ド・フランス教授序、 L'Harmattan l996年4月刊 280べ ジ、160フラン ISBN:2‐7384−4ll3−0]